「 love, speed & loss 」
2011-09-04




70年代の世界GPで活躍したキム・ニューコムを中心に、当時のGPシーンを描いたドキュメンタリー

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キム・ニューコム

船外エンジンのケーニッヒ、2サイクル水平対向4気筒を積んだ自作のバイクで、MVなど当時のワークスを相手に奮闘していた人物だ。バイクの熟成が進んできて、結果が安定し始めた矢先に、レース中に事故死してしまう。

収められているのは、70年代の当時に撮影された8ミリなどの映像と、最近撮られた当時の関係者へのインタビューだ。
主な語り部は、彼の奥さん。二人のなれそめから、GP転戦の日々、事故死、そして、その後。お話は、彼女の語りを軸に、淡々と続く。その悲しみの深さは、 以前取り上げた「未亡人は言った・・」 の辺りより、よほど辛辣に思える。

事故死したライダーの話ということもあるのだが、当時の映像、ちょっとピントがボヤけてて、でも何というか、皮が薄くて、ナマの肉の体温が、そのまま透けて見えるような映像は、何故か無性に悲しくて、生傷の痛みまで伝えてくるような、逃れがたい厳しさがある。

彼は、ただの「ライダー」ではなかった。「エンジニア」でもあり、「メカニック」でもあった。バイクを作り上げ、日々の整備を行い、性能を上げつつ、トラブルを潰して熟成させる。転戦のために運転手もし、サーキットに着けば自分で走る。全く、すべてを一人でこなしていた。

当時、MVや日本車のワークス勢は、豊富な資金力でもって、プライベートライダーを、サーキットの視界の脇に追いやりつつあった。彼も、その目立たない一人だったのだ。 少なくとも、初めのうちは。

彼のバイクを今の目で見ると、タイヤが未熟だった当時の「低くていい感じ」そのものだ。万人受けしそうな安心感はないものの、頂上まであと一歩、というレッドゾーン寸前の、勢いと危うさ、その両刃の稜線を、体現していたようにも見える。
きっと、「独特」ならではの苦労もあったろう。(「単独」で対処しないといけない。)その神髄は、彼にしか分からないし、だからもう、誰にも分からない。

そして、やはり、当時のGPの空気である。
「死にたくないなら辞めればいい。」
違うさ。安全対策なんかにカネをかけて、自分の取り分が減るのがイヤなだけだ。大切なのは、末端のライダーがどうこうなんかではなく、運営側の実入りなのだ。単に。

そんな時代。

雨のサーキット。
彼は、もういない。
古びたトロフィー。

悲しい風景である。

それは多分、人が主役だった時代が失われたから、なんかではなくて、
そんな時代なんか、一回もなかったから、なのだろう。


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余談だが、彼は、以前取り上げた ジョン・ブリッテン や、 バート・マンロー と同じ、ニュージーランド人だ。
「全てを自力でやる」という、驚嘆すべき意思と能力でも共通する。
お国柄、なのだろうか?。


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