読書ログ 「台湾海峡一九四九」
2012-08-11




中華人民共和国の成立から現代に続く混乱を、人々の実体験を通して描く

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「戦争当時の混乱」というと、日本人は、太平洋戦争を想起する場合がほとんどだろう。我国の「直近の」戦争体験であり、情報も豊富だ。また、それが遺した傷や矛盾が、まだそこここに残っているからでもある。
しかし、あの戦争は、連綿と続いてきた、近隣諸国や自国内での諍いの歴史の、ほんの最終章に過ぎない。

本書は、その歴史の過程で生じた、同じような傷や矛盾が、すぐ近隣の島にも存在し、かつ、それがいかに大きく、深いかを、人々の実体験を軸に、ギリギリと書き綴っている。そして、その責任の大きな部分を、我々日本が負っているのを知ることになる。

中国の経済的な台頭からこっち、極東〜東南アジアはある意味、混乱を深めている。台湾の地政学的なポジションは、相変わらず微妙だ。

近年、この「島」は、経済的には、日本の製造業が「もって行かれた」地域の一つではある。(もう一つは「半島」、次に「大陸」。) 機械産業や半導体などの基幹産業の移転が、日本に衰退をもたらした一因ではあるのだが。「島」との反目がさほど深まらないのは、「半島」や「大陸」のどんちゃん騒ぎがかまびすしく、イヤでも目に付くからだろう。

台湾は、親日感情が強いという。実際にそうだと思う。例えば震災の前後では、いろいろと助けていただいた。
ざっと見回すと、アジアの国々は、友達を作るのがヘタなようだ。そんな中、このご時勢でも、この「島」同士が友人でいるというのは、珍しいことのようにも思える。

そんな背景もあってか、本書にある「歴史」は、よくある類のプロパガンダ臭(南京や慰安婦に見られるような)がなく、なので歴史そのものに対する真摯な態度を、書き手も、読み手も、失わずに済む、という稀有な例のようにも思える。

夏のこの時期、日本人が戦争を思うと、つい被害者ヅラをまといがちなのだが。そんなに単純ではないなあ・・・と、思考を一歩、深められたような気がした。

今や、仕事で台湾にかかわる人も多かろう。
知識として、知っておいて損は無いと思う。

大人の、夏休みの副読本としてお勧めである。


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