読書ログ 「日本のリアル」
2012-12-08




真実というのは、散在するものなのだな、と改めて思う。

「本当のこと」というのは、突然に大きく展開してくるような、断絶を伴うものは少ない。いつも傍にあったのに気付かなくて、でも一旦見てしまうと、存在感がずしりと来る。以後、それを基準に考えざるを得なくなるのだが、不思議と反感も無理感もなく、自然に受け入れて行ってしまう。そんなものが多いと思う。

なので、読んだり聞いたりだけではなくて、実際に見たり、経験したりといった、実体験の裏打ちが重みを持つ。

ここで語っている方々は、自分の人生のほとんどの時間を費やした「生活」、生きて動くこと(本来の「仕事」)の中で得た実感について語っている。世の中の趨勢や通説とはかなり異なった意見も多いので、興味が無い人には全く響きそうにもないのだが。私には、無視できない重みがあるように思えた。

今、我々を忙しく(心を亡くす、と書く)しているのは、無闇な進歩や成長、繁栄への信仰が一因であり、そうやって、流されて来てしまったが故に、ずっと昔に何かを置いて来たような、何か間違ったんだがよく思い出せないような、そんな感じが、ずっとし続けている・・・ようにも感じられる。

多分、進歩というのは、新型のiPhoneをいち早く手に入れることなんかではなく、本来は、ここで語っている皆さんが歩んで来たスピード感で進むはずのもの、だったのだろうと思う。

ここで語っている皆さんは、ある意味、行き詰まっている。だから、こんな小さな本の中で語ることが、商品になるのだ。でも、ひょっとして、行き詰まっているのが、この本を手に取った我々の方なのだとしたら。そんな「状況」の側にこそ、本当の病理があるのだろうとも思われた。

それにしても、対談の相手として著者扱いのご老体は、なかなか余計だったと思う。我田引水が過ぎて、しばしば話をブチ壊しているし、もっとちゃんと語り手の話を引き出せたはずなのに・・という残念感が読後に残る。確かにデキるご老体ではあるのだが、例の、みんな自分みたいじゃないからダメなんだ、と言わんばかりの口ぶりには、辟易せざるを得なかった。

対談ではなく、インタビュー集として出した方が、実直な本になったろうと思う。


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