読書ログ 「脳のなかの天使」
2013-08-03




脳科学者による、専門的な知見の、平易な解説である。

何でも、同種の著書で結構売れたのがあるそうで( 「脳のなかの幽霊 」禺画像] )、本書は、その続編という位置づけらしい。

なんで、題名が幽霊→天使に変わったのかは、よくわからなかったが。
「天使」のイメージ通り、すっきりポジティブな印象でもって、面白く読めた。

過去、何度か、同じような本を取り上げたが、今回のは、少し趣が違った。

高名な学者さんによる御知識ご開陳という、よくあるパターンではない。

既知の事象やデータ(脳内の働きに関する知識)を、つなぎ、つむいで、未知の事象(医学的な症例など)との対応を取ることで、その所以や仕組みを解き明かそうとしている。哲学や、心理学のテリトリーまで取り込んで。

面白いのは、真実は一つ、こうであるはず、あらねばならぬ型の、一元論的な話の展開とは違うことだ。無論、神のせいに帰して、済ませたりもしない。多元論的で、柔軟な考え方をしている。

多分、著者がインド人で、一神教的な思考法に固まっていないのが、効いているように思われた。
少なくとも私には、この思考法はよく馴染むものだった。(ちなみに、脳は不思議なんデスネエ風に、曖昧に丸めて終わらせる、ニッポン方式とも違っている。)

とはいえ、活字の量は結構ある。1ページの字数も多いのに、全編で400頁超(翻訳者の解説なし)。平易に書こうとはしてくれているんだが、書くべきことをあまねく網羅しようとすると、この量になる、ということらしい。とにかく詳しくて整理もされているので、知識の辞書としても使えそうなボリュームだ。
しかし、宣伝だか思いつきのような、底の浅い科学読み物も少なくない昨今、これは納得だ。最新の脳科学の内容を、誤解なく伝えようとすれば、少なくともこの量にはなる。

調査のやり方からして、多岐に渡っている。
・MRIイメージのようなもので、脳そのものの機能を調べることはもちろん、
・脳の特定の部位に障害が発生した患者に特徴的な症状を調べることで
 脳の機能マップを、
・サルと人間の脳の違いを調べることで、人間だけが持つ特徴、例えば
 ユーモアなどが、どのようなメカニズムでもたらされるのかを
それぞれ、調べている。

著者の興味は、人間に、爆発的な進化をもたらした所以が何か、人間を、他の動物と一線を画しているものは何かにある。

例えば、ミラーニューロンだ。
相手の「感情」、つまり、「脳が働く様子」を、自己の内に同時シミュレーションすることで、密接なコミュニケーション、つまり、意味の共有がリアルタイムに行える。だから、生死に関わる情報の共有を、数世代の時間を投じて、遺伝子に書き込む必要なんかはなくなった。その場その場で、臨機応変な対応ができることになったのが、長足な進歩を促したではなかろうか、と。

いろいろ示唆的にも読める。

認識と錯覚の境目は、実はいい加減で、脳は、拡大解釈をしがちなのだそうだ。さらに、脳は、情報の処理に複数の経路を持つが、矛盾や違いを極端に嫌う傾向があり、それを避けるために、捻じ曲げや捏造をするのだと。

脳は、基本的に、自分に便利にできている。
不真面目で、利用され易い。
同調圧力を好むし、情報操作に弱い。

脳は、自分が思っているほどは、緻密でも、真面目でもないらしい。
ぶっちゃけ、自分の主人が、自分なのかも、わからない。
仕方ない、気楽でもいいんだな、と思う一方、気をつけねばね、とも思わされる。


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