読書ログ 「正直シグナル」
2013-08-17




多分に、誤解を与える表題だと思う。

目の前の人と、直接的、感情的に「この人、いい人に見える、感じる」のような、個々人のかかわり合いを論じた本にも思えるが、そうではない。

無意識、一般的に、我々がものを感じ、判断している作法を、統計的に抽出して、社会学的な見地から、意味づけを行おうという試みである。

何のこっちゃワカランと思うので具体的に書くと、人々が何を感じているか端的に測定するというソシオメーターなる装置を多数の人に装着し、いろんな場面のデータを収集、解析して、人間の「群れの法則」を抽出しようとしている。

例えば、我々は、自分で判断しているつもりでも、実は周りの状況に合わせたり、従ったりしているだけなんデスネエ、といった按配だ。

統計的な処理が入るので、(細部)個々の事情は、塗り込められて見えなくなる。「パッと見、または遠目で見ますと、こんな感じに見えますよね」と丸め込まれてしまう。

統計の罠、と私は勝手に呼んでいるのだが。
皆さんにも覚えがあろう例を挙げる。

一番なじみがある統計用語と言えば、偏差値だろう。
入試の頃、模試やなんやでつけられるアレだ。

例えば、数人の成績が上がり、同じ人数が同程度に落ちれば、統計的には、何も変わらない。(細部の無視)

皆が等しく成績が上がれば、あなたの得点が横ばいでも、成績は落ちたことになる。(相対評価)

平均点を取った奴は、居ないかもしれない。(抽象化)

非線形系(一筋縄で行かないもの)や、多元系(いろんなものが、いっぺんに絡んでいるもの)を扱うと、誤差が大きい。(やり方次第で、いかようにも結果が作れる。)

境界条件(どこまで有効なのか)を、はっきり言わないことが多い。(考えてすらいないことも。)

偏差値がいくら良くても、入試に受かるかを保障するものでは全くない。良くても落ちる、悪くても受かるといった例が、周りにも居たはずだ。つまり、ただの目安でしかない。

要は、統計は、使いようによっては便利なものさしではあるものの、それなりのクセもあるものなので、使い方に気をつけないと間違いますよ、ということだ。

そんなわけなので、本書の場合も、解釈や裏づけに、脳科学的な情報を引用したりもしているが、どうもしっくり来ていない。

きっと、日々の生活に役立ったり、彩りになったりすることもなかろうと思う。

逆に、「抽象的な社会学的一般論」なので、断片をちぎって膨らませば、いくらでもネタになる。パッと考え付くだけでも、
 ・どうして買ってしまうのか、正しいマーケティング方法とは?
 ・カレのウソを見破る方法!
 ・ソーシャルに騙されないために
 ・プラス(マイナス)思考で上手く行く!
 ・ネットワークインテリジェンスの管理について
  (マーケティングかマネージメントのことだろう・・・)

このご時勢、断片をただ膨らませただけの文章を、もっともらしく偽装するのが得意な人は結構見かけるが。そんな皆様には、いいネタになる本だろう。

個人的には、翻訳の拙さが気になった。

例えば、「行動の薄切り」とあるのだが。何のことでしょうかね。
原語は何だろう。スライス?。
なら、「行動の断片化」の方が、すっきりするかな。

大体、表題の「正直シグナル」からして変だ。
原語は、Honest Signals で、まさに、ド直訳。
群れを扱う内容ですよ、というのを醸しながら意訳すると、
 直感ムード
 本音ビーム
 共感光線
 無意識のうわさ
てな所だろうか。

タイトルに使ったら、どれが一番売れそうかな?。


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