読書ログ 道具にヒミツあり
2016-07-09




子供向けのジュニア新書なのだが、図書館で、まるで私を狙ったかのような題名に釣られ(笑)。そのまま、借りて読んだ。

著者は、こういった、もの造りウンチク系の本をたくさん出されている方らしい。昭和8年に大田区で生まれ、18歳から51年間、町工場で旋盤工をされていた。もの造り大国・日本を実際に支えた世代で、現場の機微を、よくご存知だ。その著者が、実際に取材に回って、今のもの造りの現場を描く。題材は、ボールペンやメガネ、自転車にギターなど、様々な身のまわりの「道具」だ。

正直、初めは、あまり面白くなかった。私は、一応だが仕事は技術畑に居たから、技術的に真新しいことが少なかったのだ。

しかし、これは、そういう読み方(新知識の吸収)をする本ではない。
昔あった、NHKのプロXの類の本(他人の苦労を涙ながらに賛美する)でもない。

既に、もの造り大国とは言えなくなっている日本だが、今でも、いろんな工夫をすべく考え抜いている技術者(または職人さん)は随所に居て、その成果が、いろんな所に波及して、実際に役に立っている。小さな技術の大きな発展が、思いも寄らぬ所で生かされている。その意外な繋がり方が見えてくると、話が俄然面白くなる。

著者が一番訴えたいのは、「技術者の真面目さ」らしい。ちゃんとしたもの、いいものを作ろうという真摯な努力の積み重ねが、日本では、今でも生きている。その姿をきちんと伝え、日本の技術の良質さや、進むべき(戻るべき?)進路を、若人に示す。

イジワルに見れば、情報源はいわば、取材相手の受け売りだから、悪いことは言わないだろうし、我田引水もあるだろう。試しに、コンペティタにも同様の取材してみたら、全く別の裏話が出てくる、そんな可能性も十分にある。

また、今や日本に残っているのは、技術力の高さではなくて、真面目さだけなのか?と、そういう見方もできるだろう。

個人的には、成功する技術者というのは、真面目さは無論のこと、ある種のズルさやシブトさも必要だと思うので、ジュニア新書レベルの教育論としても、ちょいとイイ子ちゃん過ぎるようにも思うのだが。まあそっちの方は、別の本なり、実生活なりで学べばいいのだろう。

本書に出てくるギターの話は、大手ではない老舗のギターメーカーの、品質に取り組む姿を伝えている。実はこれ、ギター業界の美談として、よく見る類の話なのだが。何を隠そう、私も当該メーカーのユーザーなので、実感として、思い当たる節はある。

私が中学生の時に(たまたま)買ったこのメーカーのギターは、数十年という時を経て、年式なりにボロくはなったが、今でも結構良く鳴ってくれている。また、数年前に子供に買ってやった4本弦の小さなギターは、時に従い、どんどん鳴りが良くなっている最中だ。

ギターにとって、この「鳴る」というのは実に大事なファクターで、ギター以外も含めた楽器というのは大概、鳴るのが楽しくて弾くものだ、と思っている。

自分なりの音楽性をハッキリ持っていて、それを前面に出すことで、つまり音楽そのもので勝負できる人なんて、ほんのわずかしかいない。ほとんどのミュージシャンは、既にあるメロディー(譜面)を、手慣れた楽器でなぞるだけのレベルに終始する。

例えて言うと、「いつものクルマで、いつもの道を走っている」状況に、ほぼ等しい。
「それでも、楽しい。」
そう思えるのは、弾き手が、弾いている実感を持てるかにかかっている。

自分の体が(ギターなら、指が)、音を鳴らす。
楽器が震え、空気を揺らし、メロディーになり、ハーモニーになる。
それを、実感として感じるのが「楽しい」のだ。

「鳴らしている実感」は、楽器の存在意義、そのものだ。
(こういうのが、本当の「道具のヒミツ」なのだと、個人的には思っている。)
それを理解している作り手が、日本に居てくれて、実際にそれに出会えたというのは、本当に、得がたい幸運だと思う。


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