読書ログ 一流の狂気
2016-07-31




著名な精神科医による、過去の偉人の診断結果である。
そのドラマ仕立ての再構成と、歴史としての再解釈。

表題だが、無論、狂気に一流や二流がある、というわけではない。一流と思しき人々に宿る狂気のようなものを扱っている、ということだ。

さて、この「狂気」だが。どうも、釈然としない。

精神的に異常かどうかの境目は、この十数年で、大きく動いてきた。統合失語症やうつ病、ADHDにPTSDなんて単語を普通に聞くようになったのは、ここ数年〜十数年のことだろう。それ以前は、よほど症状がはっきりしていて誰の目にも明らかであったり、実害がある・ありうるケース以外は、ちょっと疲れているなとか、変わった人だなとか、そんな程度で済まされていた。いわば「精神的な異常」というのは、ここしばらく、拡大を続けているのだ。

だから、今の精神科医が、昔の人物を診るとなれば、「狂気」と言える症状は、いくらでも「再発見」されることになる。過去の偉人が成した偉業が、今振り返って変るわけでもないのだが。それを今の(脳神経科学的な)尺度で見直すと、狂気だったんデスネエと、そうなる。しかし、どうもただの後知恵のように見えて、釈然としない。

まあ、この本の目的は、学問でも研究でもなく、ドラマでありエンタティメントであるらしいので、細部を突っ込むのは野暮である。また、この手の読み物には良くあることだが、「最新ではあるが、全てが判明しているわけではない」ので、「最先端はこうです」は述べる一方、「だからどうした」はスッパリ抜けていたりする。話としては「オチがない」し、キッチリした結論も望み薄だから、とにかく、ストーリーを楽しめば良しということなのだろう。

いわく、頭が良いのに説得力がまるで無い人がいる一方、逆のケースもある。頭が良くて説得力がある人というのもいて、その集中力はある種の狂気が関わっている。というのは、その言動に表れるこんな特徴が躁鬱の躁のパターンであり・・・。有事のリーダーは狂気があった方が好適、健常者はかえって不適・・・(「狂気」ではなくて、「適性」のお話のような気がするが。野暮はやめておく。)

まあ総じてしまうと、「正気」が良くて「狂気」が悪いとは限らない、「疾患」が及ぼすのは悪影響ばかりではなくて、場合により良いこともあると、そんなお話なのだが。無論、狂ってよし!ということにはならないし、精神疾患で苦しんでいる人を、救ってくれるわけでもない。「オレ自己中で皆からメッチャ嫌われてんだけど、狂ってんだからいいのか〜」といった辺りが、最もしてはいけない誤用だろう。

古今東西(いや、西欧だけでアジアはいない)の有名人を取り上げていて、やはり、軍や政治、会社などの組織のリーダーが多いようだ。それぞれ、ほぼ章別に分かれているので、好きな人、興味のある人だけを読んでもいいだろう。(何だか、便利なクルマのインプレ本みたいだ。こんなの?)

ナイショだが、そういう造りの本なので、各章の終りの部分、結論じみた所だけを拾い読みすれば、全体の内容が、だいたいは分かってしまう。読書感想文の宿題をラクにこなすには、もってこいのネタ本なので、そういった誤用は可能かと思う。


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