◆ (単行本) 欲望の見つけ方
2023-10-03


表紙カバーに大きく、
「人は皆、誰かの欲望を模倣する。」
まさにその通りの内容の本だ。

ルネ・ジラール という学者に師事した著者が、その思想を実際に即して解説している。

その骨子だが、

我々は普段、自分の意思で物事を決定していると考えており、当然、次に何を欲するかも、同様に考えている。
だが実際は、自分が属する群れの意図や、そのモデルとなっている特定の個人などの影響を大きく受けており、実質的に「ほぼ模倣」と言える行動を取っている。
それがどのようなメカニズムで発現し、どのような副次効果をもたらすのか、実際に即して考察する。

・・・といった感じだ。

そのメカニズムの詳細だが、理屈としては、あまり複雑なものではない。
齟齬を承知でかみ砕くと、

まず、隣人と比較して、自分には無いものを「ボクも」とばかりに欲しがるケースがある。これは、人間が持つ根元的な欲望の在り方であり、古代から繰り返し発現しているメカニズムだ。このタイプの欲望は、スムーズに達成できるとは限らない(例えば、欲しいものが「組織上のポスト」のような有限の物だったり、上司など第三者の評価が介在する場合は尚更)。また、上手くいかなかった場合は「争い」に簡単に転化してしまう危険なものでもある。

また、別の形態として「理想的なモデルとして想定されたものの模倣」もある(セレブの持ち物を欲しがる、など)。こちらは、(第三者の)誘導などの意図が介在している場合がほとんどであり(メーカーのステマや、権力者による強制や誘導など)、その管理の実力次第で功罪両面がありうる。(イノベーションになる場合もあれば、民衆圧迫・人権蹂躙になったり。)

グループの理想からの乖離や、事態を収めるための人柱といった意味で、「罪」や「スケープゴート」といった行動も、同じ文脈から説明できる。

外部からの影響による欲望の操作から脱却するには、欲望を操作するメカニズムの種類を意識し、自分がどのメカニズムで欲望を操作されているのかを自覚することで、今の自分の欲望の真偽や、重要度を冷静に判断することが肝要となる。

また、同じことを集団に対して働きかける(あなたが管理職だったら、上記に従った正しいフィードバックをチームに与える、といったような)ことで、グループ内での無用な争いを避け、グループ全体のポテンシャルを底上げしたり、より目的に適う形で、結果に貢献できる。

本書では、古今東西の文献を駆使して、それぞれの模倣の形態の具体的な事例が列挙・説明されている。
(本書のボリュームは、主にこの著者による例示と解説のクドさで造られている。)

また、そこからの脱却の方法も、具体的にケース分けして説明されている。(少々説得力に欠けるようで、あまり納得感は得られなかったが。)

・・・と、本書に倣って、小難しい説明をしてきたが。

自分の事を考えても、朝の通勤時に見かけた中華料理屋のメニューが気になって昼飯をラーメンにしたり、街中やテレビで見かけたカッコいいクルマに似た形や色のを自分でも欲しがったりとか、意図的に、または単に結果として、外部の情報に流されて次の行動を決めていることに関しては、身に覚えがある。

皆様にも、同じような「身に覚え」は、おありだろうと思う。

自分が、何を欲しているか。
それは、どうもたらされたのか。

例えば、次に買うクルマを、どう決めているか。
試乗して見積り取って・・・は無論として。
まず最初の選択として、試乗しに行くクルマは、どう選んだろうか?
たぶん、雑誌やネット記事、メーカーのホムペなどの、情報で決めたろう。

見たことも触れたこともない新型のクルマに興味を持ち、欲しくなる。
それって、どういう仕組みなのか?

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