◆ (単行本) 犬だけの世界: 人類がいなくなった後の犬の生活
2023-12-23


原題は、
A DOGS'S WORLD:
Imaging the Lives of Dogs in a world without Humans

イヌの世界:
人間がいない世界の、犬の暮らしを想像する

邦題の、
 犬「だけの」
 人類がいなくなった「後の」
といった辺りは翻訳者の作文で、人類絶滅が前提となっている印象を与えるが。本書に、その意図はない。

原著者はコロラド大の教授で、今時の西洋の人なので、「環境問題における『正解』としてのNature」は、「人がいなかった場合の自然環境」を意味するから、人類絶滅は、いわば原理であり、理想として、その思想に根付いている。その故か、本書でも、人類絶滅が、無意識的に前提化している感は否めない。

この辺りの感覚、特にヨーロッパ系の環境派で顕著なのだが、自然環境的な理想は、人類がそれに及ぼす影響がゼロであった場合を想定・仮定する。結果として、そこから打ち出される対応策なり政策なりは、必然的に「人類絶滅に向かっている」方向性を感じさせる、非現実的なものが多くなる。

ヨーロッパでは、少し前まで、化石燃料の全面禁止、原発の忌避、クルマの電動化や自然エネルギーへの転換など、半ば狂信的な主張が、喧しく主張されていた。(その急先鋒、よく言えば最先端を自認しているドイツは、今でもやっている。) しかし、ロシアの侵攻に伴うエネルギー事情の変化もあって、電気代の高騰したり、実際に寒い冬を過ごしたりで、少しは現実に目覚めたせいか、当初設定していた期限の先送りや、お話そのものの棚上げを含めて、緩和の方向に進みつつあるようだ。

クルマのEV化も、当初は、「ドイツの先進の技術開発で市場をリードし、EV車を中国に大量輸出!」という目論見が、技術・市場戦略的に中国に完全にしてやられて、今や逆に輸入攻勢に晒されるに至り、トーンダウンが著しいようだ。

全体として、理想vs現実の天秤が逆方向に傾きつつある過渡期にあって、方向感がない朝令暮改や、見苦しい言い訳や、強硬な押し付け(西欧いつものパターン)も目立ち始めている。

他方、和を持って良しとする我々日本人は、周辺国の方針に楯突くことなく、むしろ合従による和合で対応してきた。彼らが打ち出す規制に反論したり、新たな提案を行うよりも、その機先を制することをメシの種にしてきた。

昨今の情勢は、そのメシのタネが、半ば瓦解し、機能しなくなったことでもある。一番うろたえているのは、日本の輸出企業なのかもしれない。(ひょとして、最近の日本の自動車業界で相次ぐ不祥事は、この辺にゆらいしているのか、とも勘繰りたくなる。)

ただでさえ稼げなくなっていた日本が、実際にその落とし穴にはまらないことを祈っているが。さて、どうだろうか。

本書に戻ると、著者はひたすら、人間がいなくなった後に、犬、特に飼い犬がどうなるか、想像を羅列している。犬の家畜化の歴史や、その生態に関する文献などを引きつつ、しかし記述の実態としては、一種の思考実験の域を出ていない。「こうだと思うが、ああかも知れない。」そんな話に終始している印象だ。

もし、本当に人間がいなくなるとしたら、犬の心配なんかしてる場合じゃないよなあと、個人的にはそう思うのだが。


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犬だけの世界: 人類がいなくなった後の犬の生活 単行本 〓 2022/10/26

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