読書ログ 「衝動」に支配される世界
2015-07-18




「我慢しない消費者が世界を食いつくす」
本書の内容は、この刺激的な副題から想像される通りだ。

ネットが使えるようになって、何が一番変わったって、何だかんだ言って「買い物」だと思う。以前は知らなかったものや、知っていても手が届かなかったもの(海外とか)にも、簡単にリーチできるようになった。

他方、「ややっ!」となったものは即ポチっておかないと、すぐに視界から消えたりすることもままあるし、その焦る気持ちを狙って「ホレ買え」とばかりに、いろんなものを目の前に据えられる機会も増えているから、ニュアンスとしては刹那的になっていて、「買ってよかった〜」とほっこりする時間というのは、ネットがなかったアナログ時代より、かえって減っている気がする。

そんな所作を延々とやらされ続けているような感じをいだくのは我々だけではなくて、特にUSでは、とんでもなく先鋭化していると。

そして、刹那的に「今だあああ!」を繰り返すやり方というのは、消費者だけではなくて、経営者とか、政策決定とか、社会の中のあらゆるレイヤに拡散していて、それが現代の病根の大きな一つとなっているのではないか、と。

それが、歴史的に、空間的に、どう広がってきたのか、なぜ広がったのか。多方面から検討されている。

そもそも、人間は、あんまり先のことまで考えない。
少なくとも、そういう人の方が多いし、目立ってる。

目先の欲得ずくで動くやり方というのは、自然の中で動物が生きながらえる方法論としては時に正しくもあり、現にトカゲや虫なんかの行動原理としては今でも見られる。その回路は人間の脳にもまだ残っていて、著者は「爬虫類脳」と呼んでいる。(生物学的、脳科学的な用語ではなく、もとはマーケティング用語だそうだ。)そうではない「前頭前皮質くん」なんかも居るんだけど、どうも、立場としては弱いらしい。

欲と二人連れになると、人間は、実にしぶとく、強くなる。
だから、資本主義は強かった。

正確に言うと、共産主義は、欲と歩ける人間を、上層部のごく一部に限ってしまったから、人間の「欲エネルギー」の総量で、既に負けが決まっていた。

クルマが清楚な移動の道具だったのはT型フォードだけで、すぐに自己実現の道具になった。マッチョなクルマに乗っていると、マッチョな気分になれるものだ。(USの人々は、本当にマッチョが大好きだ。) クルマ業界は、毎年、それを狙ってモデルチェンジを繰り返すようになったし、そんなこんなで、今はSUVが流行っている。
「事故の時に死ぬのは向こうね。」←爬虫類脳

それを可能にしたのは、クレジットローンという金融手段だが、次第にそれは、自己膨張を始める。クレジット(信用)自体は、有限なのにもかかわらず、だ。

レーガノミクスによる自由化(規制の撤廃)で、市場は活性化した。欲と二人連れで歩く皆様が、その歩みを加速したのだ。ただ、ルールによる縛りがなくなれば、当然、力の強い者、棒弱無人な者が勝つようになる。そして、構造的に弱い部分から壊れ始めるのは、物理の法則でもある。

会社は、株価を保つためにリストラを繰り返すようになった。株主は、明日の株価が上がりさえすれば、将来的に会社がどうなろうと、知ったことじゃないのだ。それは、ストックオプションを握り締めている、当のCEOも同じこと。

富はどんどん上に集まり、庶民の生活は厳しくなるばかり。でも、文句を言う者は、ベトナム戦争の辺りを境に、ほとんど居なくなった。頑張れば明日は良くなる、そんなアメリカンドリームを無邪気に信じている、というわけでは全くなくて。どうも皆、「購入物による自分探し」に忙しいらしい。


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