国宝ロストワールド
2020-08-16



また例のように、どこかの書評で見かけたのだが。もっと大きい本かと思っていた。実物はA5判の小さな本だった。

内容も、題名と違っていた。
要約すると、「国宝を撮った写真の歴史」を紹介した本だ。

写真の技術が確立されたのは、19世紀後半。ほどなく日本にも伝来したが、その当時の、明治の日本は、西洋に追い付け追い越せの真っただ中。古い伝統は捨て去るのがナウいということで、貴重な仏像なども、壊されたり捨てられたりが多かったらしい。

当時の新進の写真家の中に、そういった状況に危機感を持った一群があり、せめて写真だけでも残そうと、寺を回って、撮影をした。

「国宝」といった概念が制度として整備され、仏像が文化財として保護や修復がなされるようになったのは、その後のことだ。

結果として、その当時の写真は、「国宝が修復される前の貴重なオリジナルのお姿」となった。(表題のロストワールドとは、多分そのことだろう。)

今や、これらの写真そのものも貴重ということで、同様に文化財として保護されているものも多いとのことだ。

明治の日本に話を戻すが、その後、写真業は、リッチな外国人観光客向けや、二次大戦中のプロパガンダに駆り出されたり、様々な変遷を経る。戦後になってやっと、本来の芸術性、つまり、自分が何を感じているかに立脚し、それを伝えようとする視点に立ち戻れた。さらに、それを掘り下げる余裕を得るに至った結果、今、我々が「写真史」としてなじみのある世界に至る。

土門拳その他の「古寺巡礼」など、仏像の写真は、今に至るまで数多くが撮られている。それは、仏像が持つ芸術性に写真家が感銘・共感し、それを写し取らんとした、表現者としての生業だ。

そして、今、明治期から続く、これらの古い仏像の写真を改めて眺めると、当時の写真家の意図として、記録であったり、義務感であったりは無論のこと、現代の写真家と同じような、表現者としての眼差しを、やはり感じる。

その流れを一望にする。
なかなか得難い読後感だった。

写真技術の変遷を追えるという、副教材的な読み方もできる。これが、さらに一興だ。

仏像写真の精緻さを読み取るには、少々、小さ過ぎる本なのだが。写真好き、特に「白黒写真をじっくり見る」型の好事家には、ご一読をお勧めできる内容だった。


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国宝ロストワールド: 写真家たちがとらえた文化財の記録

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