◆ (単行本) 断片的なものの社会学
2023-12-06


著者は社会学の研究者・学者さんだ。その手法は、今流行りのデータ解析による統計的手法ではなく、当事者にいちいち当たって聞き取りを行う、トラディショナルなスタイルだ。

得られたデータ(というか証言)を分類して、トレンドとして紹介したり、自分なりの大胆な解釈を加えたりすることで、成果として公表していると。

そんな中、そういった表向きのストーリーにどうしても乗らない証言、悪く言えば「ノイズ」の方に光を当て、大雑把に分類して章立てにして羅列したものが本書である。

当然、話はランダムに飛ぶし、社会学レベルには至らない、些末の連続となる。それでも、著者が何かしら感じたものがあるからこそ、こうやって取り上げ直そうとしたわけで、その幾ばくかでも伝えられたらと、そんな意図で書かれたようだ。

著者は、幼い頃、妙な性向があったと。路傍の石を一つ取り上げ、いつまでもうっとりと眺める。それは、その石が美しいとか気に入ったということでは全くなく、自分が取り上げることで、ただのありふれた普通の石が、自分の手に取り上げられることで、また違った普通に遷移する。そのありようの不思議さに魅惑されていたと。

著者が自認するように、本書の営みは、そういった性向の延長にあるのだろう。ただのありふれた普通を拾い上げ、注目する。そこに特有の意味を見出す一方で、題材の方には変化はなく、ただそのまま普通なだけだ。

著者の営みが、何かを変える(改善する)きっかけになったり、まして解決になったりする訳もない。ただ、普通そのものを見つけることが目的で、やり続けずにはいられない。

その営みに同意できる読者がどの程度いるのか、同意したとしても、著者と同じように、そこに何がしかを見出せるものなのかは、分からない。

ただ、私は、ありふれた末期がん患者として、普通のまま消滅していく瀬戸際に居て、こういう本を手に取り、読むようになったのだなと。そんなことを、漠然と感じつつ、ただ本を閉じた。


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断片的なものの社会学 単行本(ソフトカバー) 〓 2015/5/30

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